文脈主義からどんどん脱却だ

 思えば僕は、けっこう長い間文脈主義に囚われていた気がする。
 それは第一に、有機農業運動というものが文脈主義そのものだった。第二に、学生時代から権力への批判的姿勢のような観念が体に染み付いていること。第三に、自分に甘く人にキビシイという性格。この3つが重なるとどうなるかというと、1961年の農業基本法以降の効率経済優先の農政が食の安全を脅かし国の基本たる農業を廃れさせている問題を民間の力で草の根で代案提示すべきと考えている自分は正しくて他はおかしい!となる。
 さいわいこの不動の3点セットは、例えば61年以降の農基法への代案に過ぎない有機農業運動がたかだか60年の歴史修正運動でしかないのではと疑問を呈したり、思考停止の国産至上もなんだかなぁと感じ始めたりした。経済やコミュニケーションというものが20年前よりははるかに便利になったり、不可欠の要素となっていく状況を、ある部分肯定的に捉えられるくらいトシをとってみたりした。スローフードという思考に鍛えられて世界を考えるようになったり、何より自分はだらしないなぁとひしひし感じ入るようになったり……と、少しずつ自己消化されていった。
 昔の自分は同僚にさえ「そういう考えは陰謀史観って言うんだよ」と批判されたこともあったくらい頭の中がガチガチだった。そして拙い自分の考え方が、時間と共にこなれていきながらも、ただ1点だけ、こなれないものがあった。それは人間関係という問題だった。とにかく文脈主義ガチガチだったから、農薬使うけど人格者の生産者と農薬使わないけど性格悪い生産者では前者!と言ってはばからなかったこの自分にどう落とし前つけたらいいんだろうと、けっこう長く悩んでいた。とか、人の感情を文脈を越えてもう一段高い次元にもっていくことの難しさを痛感していたり、要は無難なコミュニケーションの枠を取っ払える人間関係なんてそうそう増やせないから、実質自分の所属している社会での常識を引きずっていかねばならないなかなぁといった諦観も働いていた。まあ今でもあるし、ほとんど自力で完全脱却はできないことではある。
 昔から今日までそしてこれからも変わらないと思う僕の考えは、何とかして機能主義効率主義だけでは何も面白い世界は開けないだろうということなので、それと対置させ続けた人間関係の大切さにまつわる主義主張、思想信条すなわち文脈的なものの考え方、ぶっちゃけ“しがらみ”をそこから抜いてしまうと、じゃあ機能効率が勝ちになってしまうというヘンなジレンマをどうしたらいいのかということが、ここのところの大きなテーマだった。
 答えのヒントは、人ではない要素としての風景、美、知で、食に関する世界を自分なりに組み立て直して、その上で人間の営みとして農や食を捉えたらどうなるかということにあった。
 去年の夏あたりから浮んでは消えしたこのヒントから、このblogも始まったのだ。あいかわらず自己中心的で、他のヒトにはどうでもいいようなとりとめもないヨタ話が続いているが、自分なりに色々な本を渉猟して、とにかく頭のなかの試行錯誤は失わずに来たと思う。
 脱却のキーはたぶん、感覚と感情は思考の中で共存する、という茂木健一郎さんの卓見(当たり前のようでいて僕には卓見!)にある。
 突拍子もないが、要は感覚というものは(官能、快楽も含め)文脈主義からは独立し、言葉やロランバルトの示すところのエクリチュールからも可能な限り遠ざかって、人類太古の記憶にその源を求める知的営為として“食”の分野において求めていっていいということ。一方コミュニケーションにおいては、“共感”という感情をしっかり大事にして、他者に対して理解を求めるという常識から離れずにいましょうということ。
 ホントに、気が付いてみると、こんな当たり前のことどうしてわからなかったんだろうと思う。それだけ僕は時間をムダにしたことになるし、あきらめずにいい経験したということにもなる。
 なぜ僕はこんな(はたからみれば)バカげた寄り道をしなくてはならなかったんだろう。
 それなりに根が深い問題だったとはいえる。コミュニケーションにおいてまず共感が生まれて、そこから主張がまとまっていくと同時に様々な不文律も生まれる。ある部分が思考停止に陥り、異質な考えが排除される傾向も風潮をなしていく。ましてこの時勢、日和見的な空気もひしひし感じていたし、理をもって会話するということも僕の属する世界では機能不全に陥っていた。そこで僕はある部分壊れたんだと今振り返る。ここらへんはナマな話もあるので多くは語らないが、とにかく僕はここ1年、1年半年、blog開設から今日まで、人と共感しあうという“感情”を、まったく忘れていたのだ。
 さて、こんなに長い期間だったから、そう簡単には元に戻すことはできないが、みんなにはこの場を借りてあやまろう。ごめんなさい。そして僕は、文脈主義を明るく脱却していきます!第2ステージに突入だ……