可能性を示す

 長い引用だ……

アーティストは創造力を形にする。創造力を日夜思い巡らして生活しているので、世の中が正解と間違い、〇か×かだけではなく、たくさんのオルタナティブな道があることを知っている。アーティストの創造力はその結果や答えではなく、過程を大事に考え展開してゆく。アーティストは無から作品を創造する過程で何かの答えを探すのではない。過程で発見した真理を問いかけ続ける。
 つまり言葉にならない事柄を作品化していく。常に過去や現在から未来に向かって作品を作ってゆくし、その作品を作るためのモチベーションの多くは直感から示唆されるのだ。ときどき自分の作品のコンセプトをよどみなく、明快に説明してくれるアーティストがいるが、逆に直感を上手く説明出来ないアーティストもいる。もちろん明快な説明が出切るアーティストの方が観客はわかりやすくてうれしいが、説明が上手く出来なくても作品が圧倒的に美しかったりしたら、それで充分ではないかと思う。多弁であろうが無口であろうが、アーティストの頭の中には創造力に満ちたイメージがたくさん詰まっている。

 今の僕の場合、説明しづらい概念として、機能主義でもなく文脈主義でもない美的な存在が“食”と“農”のはざまに横たわっているということをどう形にできるかということ。“食”というものが(思想や経済から一旦離れ根源的に)美的に備えているエレメントをどう抽出して、どのように生産者に共感してもらえるかということ。その“食における美”という存在の入り口が“風景”だったり“料理”だったりするのはわかるが、人々が心を動かすような具体的な事例を示さねばならないこと。
 ……長い引用は現代アートの応援団と自称する山口裕美さんの『現代アート入門の入門』から。アートから離れて久しいが、今ってどうなってるんだろうなと思い出会ったアーティストの見方というものだ。なんだか自分に言い訳をしているようで気恥ずかしくもあるが、こんなことにやけに納得してしまうのだ。
現代アート入門の入門 (光文社新書)