来週まででいいんだけどね、

buon-noson2007-04-09

と電話で話され、普段から仲が良くさせていただいているBM技術協会という農業系の団体の事務局長の磯田さんから、書評をかいてくれと依頼された。
「何書けばいいんですかねぇ」とたずねたところ「農家の人たちはこれからいろいろ勉強しないといけないんだ、と椎名さんが言ってるんだヨ」と。で、かねてより自分も腑に落ちるところあり、書評に名を借りて書いてみることにしたのであった。

書評 スローフードの本

 シゴトなのか趣味なのか、自分が生産者の会に関わり始めた6年前に偶然出合った気になる言葉が“スローフード”だった。気になったのにはシゴト上の理由があった。ひとつはその頃の社会問題。2001年9月11日を境に世界が変わったと言うが、食を巡る環境も97年から03年までの色々な事件で大きく変化していた。

雪印BSE東海村ダイオキシン

……とにかく食品、食品業界のすべてが不安。信用できない! と消費者が訴えるに十分過ぎる事件が連続したでしょう? 制度でも有機JASが始まったし、HACCP、ISO、GAPなどなど、どうもこれからは認証や証明書が必要な時代になったと。グローバル化の時代。最初僕はトレーサビリティーという言葉を知らず、意味を聞いて「あっトレーシングペーパー」のトレース(なぞる)と同じか」とナットクしたのを覚えている(^^)。
 さておき、このまま行くと生産者は証明書の洪水に溺れ死んでしまうのではないか、証明書があれば輸入も国産も関係なくなっちゃうのではないか、とマジメに悩んでいたときに出合ったコトバが“スローフード”だった。

スローフードというのは、

 イタリアに本部を置く国際NPOの名前で、その協会が世界で進めている運動の名前だ。小さな生産者、良質な食材を守り、味覚教育を進めることを柱として、食の世界遺産ともいえる世界の食材のカタログ作り(味の箱舟と呼ばれている)と支援、州や地元自治体との食科学大学設立、2年に1回開催の世界生産者大会など、社会に様々なアプローチし年々支援会員を増やしている。僕もRadixの生産者と共に3回ほど通わせていただいた。
 今回事務局長の磯田さんから紹介しろと仰せつかった本は、それをほんの入口で概観できる本。協会のことも書いてあるが、イタリアの食についてより多く紙面が割いてあって、ぜんぶカラーだから見るだけで楽しめる。
 さて、スローフードのことを話すと「俺らが昔からやってることと同じ」「新手の地産地消」「グルメ」と一刀両断され恐縮してしまうことも多いのだが、ソレとはどうも違うようだ、と勘づいている方はいますか?

“食卓派”という新手の人種?

 そんな方々にオススメしたい本は『スローフードバイブル』(カルロ・ペトリーニ著・NHK出版)『スローフードな人生!』(島村菜津著・新潮社)それと僕の所属するRadixの会の会報『Radix News Letter』のバックナンバーです(^^;)。
 バイブルの方は設立者本人が設立の経緯、理念、社会的位置づけから今後に至るまでを書き下ろした本だから読み応えがあるし、人生!の方は組織論ではなく、スローフード協会から食を通じて生まれるいろんな人間関係を含めて“おいしいこと”を紐解くノンフィクションだ。
 彼らは“おいしい”を追求した挙句、お皿の外のことも考えないと“おいしく”食べることは出来ないゾ!と行動するようになった都市生活者グループなのさ、と聞いたことがある。ヒッピー崩れでも脱サラでも学生運動上がりでもなく“食卓派”という新手の人種(?)たちだという点。発想が新しい。
 それぞれが違うことを自らのアイディンティティとしている(らしい)ヨーロッパにおいて、“食文化”“地域性”というテーマに、正面から向き合っている彼ら。
 例えばの話、それぞれに違う文化が、その違いを超え淘汰を重ね普遍化されたものを仮に文明とすると、世界共通の石油を使って機械を操り、共通の品種を蒔き、共通の基準で認証を受け、グローバルに行き渡る共通の物流網を利用することが可能な時代。私たちはその文明の恩恵を受けつつ、良くも悪くも、ビジネスとしても、個人としても、家族としても、他との違いを見つけ出さないではいられないと思う。

 ……昔「なんでも見てやろう!」と世界を駆け回った方がいた。スローフードに限ったことではないが、主体を自分に引き寄せて、知識や見聞を広げていくのもいい。21世紀初頭の反省から、基準・認証を始め様々な制度が整備されてきた。12月の有機農業推進法施行も含め良い面も生まれてくると同時に、これからは地域の文化、つくり手の個性が改めて(これまでとは違ったかたちで)見出されていく時代になるのではないだろうか?