有機栽培の日本茶農家と共に、

buon-noson2006-11-07

 2006年10月25日から30日まで、僕の所属するRadixの会とらでぃっしゅぼーやがバックアップし、イタリアスローフード協会の主催する食の祭典「サロネデルグスト」と世界生産者大会「テッラマードレ」に、一園逸茶の取り組みを発表してきた。メインはこれまで30年来有機栽培を続けてきたお茶農家の団体、静岡有機茶農家の会

 一園逸茶。簡単に説明すれば、自園自家製茶の有機茶の価値を国内外ににPRしていこうというもの。この企画の実質的な出発点は2005年末、静岡で木原義行さんにお会いして、スローフードと日本の有機茶とのコラボレーションを相談したときだった。木原さんにぜひこの取り組みの代表を務めていただきたいと、自分が書きなぐった構想のメモ紙を受け取っていただいて、スタートした。

 これまで有機茶の世界は、有機栽培である点と、茶の栽培の生産者と加工者が同じなことからトレーサビリティがとれるという2点で語られてきており、あとはこの道30年とかの信頼性を加えるくらいで、その文化的側面や、そもそもの味についての理解を促すアプローチは成功しているとは言い難かった。

キーワードはテロワール。土地の記憶

 この状況を切り開く可能性を秘めたキーワードがテロワールという言葉だった。なんとなくの意味は通じていたのだが、ワインの専門用語ということで、できるだけ普遍的な言葉にまとめようと、本とかWEBとかいろいろと調べまくった。かなり学術的解釈がなされていて、さすがと唸る一方、お茶の世界でそのまま通用する知見や実績もなく、結果自分なりの解釈をして、行き着いたのが“土地の記憶”という言葉だった。
 可能性としているのは、いまだ自園自家製茶という共通ルールでの社会的評価がなされていないことと、ワインという奥の深い味わい、香りの世界とお茶の世界を同じ評価軸で比較できるか不明だという点を残すからだ。しかしその立脚点には普遍性があり、かつつくり手や土地の存在を無視してはその価値が成立しないという、生産者礼賛の視点は十分に運動足りうると考えた。有機認証などその背景にある生産者や土地が等閑視されてしまうような、ある意味生産者にとり危機的な状況が進む中、“土地の記憶”はつくり手無しには表現され得ないからだ。
 この言葉をもとにして、僕は木原さんに取り組みの船頭役を引き受けていただいたのだった。より詳しくは今後加えていくとして、当時の作文を記憶にとどめたい……

土地の記憶……日本茶テロワール

 土地の方言をフランス語で“accent du terroir”(アクセント ドゥ テロワール)と呼ぶのをご存知ですか? 同じくフランス語で地面、地球を意味する“terre”は、日本語のテラス(台地・壇)の語源につながり、“terroir”の語源でもあります。では“terror”の意味は?……
 直接的には地方、産地の意味となりますが、ワインの世界では、テロワールの意味合いは広がり、その土地の気候、地形、更に歴史文化さえ含まれてきます。ワインに関してテロワールの意味するところは「気候、地形、地質、土 壌などの複合的地域性」のことをいいます。ワインのテイスティングや評価のとき、そのワインの醸す個性が、葡萄の樹の育つ環境すなわち土や水、気候を含めた“地域”の個性を源とするため、これを称し“terror”という表現をするのです。
 テロワールというのは単に土のことをいうのでなくて、方言のようにその土地のあら ゆる現象との 密接に結びついたその土地ならではのものです。フランス独特の文化の中で生まれたこの言葉、日本語にはぴったりあてはまる言葉がなかなかみあたりません。「地域性」「風土」という言葉が近いですが、それも十分には表現しきれていません。日本語にした方がかえってややこしく感じるかもしれませんが、テロワールを構成する個々の要素を見ていくことによって、よりワインの違い、多様性を理解する手助けとなり、ひいてはあらゆる食べ物、さらに広げるとあらゆる文化にテロワールを感じることになるのではないでしょうか。
 お茶もそうです。八女茶、宇治茶、因尾茶。葉の形、色、香、味、みなそれぞれの産地によって違います。このことを教えてくださったのが、イタリアスローフード協会国際理事のジャコモ・モヨーリさんでした。

ワインとお茶は土地の記憶に結ばれた偉大な恵み。

 2005年4月。茶摘み直前の静岡は本山、静岡有機茶農家の会・斎藤さんの茶畑を訪れた際、ワインの専門家でもあるモヨーリさんは、そのとき供された十数種類のお茶すべてを細かく吟味し、特有の言葉で表現していきました。「このお茶はミネラルの香り、こちらは柑橘系の香り……」
 育った土地ごとに、製茶方法ごとに、味や香りが変化する。自園自茶の生産者ばかりが集まる私たちにとり、それは新鮮な驚きでした。お茶は一般に、目標とする味に向けてどんな栽培がいいか、どんな製茶がいいかを組み立てる傾向が強いものですが、モヨーリさんは、“terror”、土地の個性を引き出すお茶作りの可能性を指摘し、イタリアに帰って行ったのです。

“一園逸茶”の取り組みは、日本全国の自園茶、有機茶のつくり手の皆様を結び、日本茶テロワールを結ぶ呼びかけです。

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 さてこの企画、現在進行形である。写真は2005年4月。静岡有機茶農家の会・斉藤さんの茶園で催したお茶会。この前段の準備も色々あったが、このときの印象が構想の出発点だった。