鉄腕アトム

アトム貯金箱

 昨日の夜中、NHKアーカイブ手塚治虫をやっていた。既に手塚治虫は有名人。その手塚さんが、あいかわらず締め切りに追われる3日間の仕事場を追いかけた記録。トレードマークのベレー帽とポロシャツもさることながら、有名人の手塚さんは、自分で絵を描き墨を入れアシスタントに手渡すという、おそらく無名の頃から相も変わらずのアーティストまたは職人としてテレビに映し出されていた。
 はっとしたのは手塚さんの言葉だった……
「僕はアイディアだったら安売りできるぐらい持ってるんだけど、悩んでることは、絵のことなんです」「昔は簡単に描けた“丸”が描けなくなっているんですよ。トシというか、限界を感じています。これを克服しようと毎晩頑張っているんだけど、こんなにつらい思いはないなぁ。負けるもんかと、描くタッチを変えようとしてるんです。だから最近の僕の絵はまあるいキャラクターより、写実的なタッチが多い。これ、実は丸が書けなくなったことの裏返しなんです」……こんな意味のことを言っていた。
 ナレーションでは、「手塚さんは漫画を40年やってきて今、100歳まで描き続けたいという。今その折り返し地点……」ということは、この番組の時の手塚さんは60歳ということではないか。60歳まで、かつて自分が描けていた丸にこだわる。
 それは手塚さんの中に、自分の固執するある種の理想が描かれているということだ。60歳のベテラン、しかもすでに世界に定評を得ている手塚さん。できないならできないなりに、いくらでも凌ぐことはできるはずなのに、自分と闘っている。他者をお手本とする次元を超え、自分の理想形を目指そうとする。アイディアは売るほどあると言う手塚さん、実はアイディアだけでも、漫画の台割だけとってもムチャクチャ斬新なスタイルを確立した人が、アイディアではなく“描く力”に理想を見出そうとしている。小手先ではない一流のプライドを感じた。

 翻って自分。どのような理想を胸に抱いているか。今の現実は措き、自分の理想を磨こうとしているか。何にプライドを抱くか……

 すんませんダダモレ、おそまつ!