進化の話題とカルフォルニアあたり

buon-noson2007-06-12

 この前触れたカルフォルニアの件、続きがある。『web進化論』で触れている“進化”についてだ。インターネットによって“情報そのものに関する革命的変化”がすでに始まっていると説くこの本で、こうした環境に身を浸し育っているこれからの世代、ちょうど今中学生ぐらいの世代が、その変化をゆりかごにして情報そのものを進化させていく、という話がある。“進化”について、昔とても気になることを教えてくれた本があって、本棚から掘り出してみた。著者はスワミ・プレム・プラブッダ。署名は『地球感覚、』。「はじめに」を引用する……

 ぼくらはもう個ではない。
 おそらくグーテンベルグが印刷術を発明したころから、一個の人間の精神(サイキ)の輪郭はぼやけはじめ、活字文化とマスメディアの興隆に加えてコンピュータ網がはりめぐらされた現代にいたっては、ひとりの人間の精神圏は難なく地球大にひろがりうる。……

 1984年8月15日発行のこの本。その頃僕は社会人なりたてで、NCRとかのオフコンが会計処理やってるとかは覚えがあるが、パソコンとワープロの違いすら知らなかった。タイプライターみたいなものかな、と。そんな頃に、インターネットがもたらした現代の“情報そのものに関する革命的変化”が予感されていたのだろうか。
 実は、それはあり得た。
 というのは、著者の星川淳さん(本名)は1979年から82年までカルフォルニアにいて、その頃のシリコンバレーは、アップルコンピュータが大ブレイクした。『iCon Steve Jobs』によると、ジョンレノンが暗殺された1980年12月8日の4日後の金曜日に、アップルの株式が公開されている。パソコンが一躍時代の最前線に踊り出て、高価で個人では手が届かなかったコンピュータが、テレビを買うのと同じような値段で一気に広がっていった時代だ。パソコン通信はあったし、ベトナム戦争を経て後のカリフォルニアには、「個」の世界が未来に向けて限りなく拡大されていくはずだ、というような雰囲気に充ち満ちていたのではないか。武器によらない平和ののイメージも携えて。

 ヒッピー文化が育まれたカルフォルニア。現代にいたるアメリカ式のニューエコノミーがもたらすだろう決定的な格差社会との異質さ、ベンチャービジネスで巨万の富を得、プールつきの大邸宅に居を構えるアメリカンウェイとの落差が気になってしまうのだが、“進化を信奉する”という脈絡でも、かなりの近親性を認めてしまう。
『地球感覚、』では「進化ロマン」という章があり、当時のマッドサイエンティスト、アーサー・ヤングの『Reflexive Universe』を引き合いに出しながら、星川さんは独特のというか、特異な進化論を展開している。光が粒子、原子、分子という構造を獲得した後、植物、動物、人間へと進んだその先は、意識という光へと進化の最終段階に還流するとか、いわゆるニューエイジ系科学者の雰囲気がぷんぷんした進化論ならぬ進化ロマンが熱く語られている。
 インターネットという道具を与えられた現在、“意識”という点で両者は近い気がする。どうもインターネットがもたらす情報の偶有性(脳科学者・茂木健一郎さんの言葉だそうで、ある事象が半ば偶然的に半ば必然的に起こるという不確実な性質だそうだ)と脳の偶有性に満ちた情報処理方法(?)は互いに似通っているそうだ。昔のガイア仮説に触発されただろう星川さん世代が、「個」を超えた意識の存在を想像したのは自然だと思うし、梅田さんは精神世界の話こそしないが、その「個」を超えた意識の容器がインターネットそのものだというような指摘をしている。
 梅田さんの言うアンチ・エスタブリッシュメントには星川さん世代のカウンターカルチャーというアナロジーがはまるし、ニューエイジにはニューエコノミーか。いずれも技術の変革を好意的に受容し未来に対して楽天的だ。やはりあの土地にいると勘のいい日本人は同じ空気を持ち帰ってくるのだろうか。そういえばジョブズは禅とか瞑想にハマっていたというし。

……自分は緑色アメリカの進化コンテクストを共有しているつもりであれやこれやと日本に持ち込み、日本におけるニューエイジの展開を期待しても周囲はいっこうに踊らない。暗くて、翔んでなくて、不器用で、カッコ悪くて、鈍感で、なんてつまらない民族かと自己嫌悪まじりの日本人嫌いがつきまとっていた……

 なんていう星川さんのくだり、『web進化論』のほうでよく説明しているように思う。さて、『web進化論』は今20刷りぐらいはいっているだろうか超売れ筋の新書で必読本おすすめ。対するに『地球感覚、』は廃版、used価格で5000円を越えていた!が、薦める相手は限られる。

地球感覚、 (1984年)

地球感覚、 (1984年)

スティーブ・ジョブズ-偶像復活

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